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「コート・ロティ」ローヌの新たな選択肢2017/11/17

april 2016 Cote Rotie photo vines

 

1980年代一時は消失の危機を迎えたローヌ北部コート・ロティは、今日最も繊細なシラーのワインを産出する地と変貌と遂げた。現在フランス国内のシラーの売上の70%シェアを誇る。

 

「ラ・コート・ロティ 焼け付く大地」

数年に渡って他のいかなる醸造所よりも優れた味の進展を見せた地である。

 

90年代、かつてこの地の多くのワインが、ワインの持つ若々しさ、男性的な強さ、木の香りのニュアンスや動物的な香りを強調していた時代があった。しかし今日、アンピュイ周辺で作られるワインにはより厳選された特性が見受けられる。その果実の爽やかな味わいはまるで輝いているかのように魅力的で、ブルゴーニュのピノ・ノワールを感じさせる。そして何より特筆すべきはラ・コート・ロティ全体の品質のレベルが安定し優れた水準を保っていることである。

 

80年代からのレコンキスタ(復活)

技術面において、ワイン醸造(アルコール発酵)の工程は穏やかなものとなっている。多くの醸造所が過度のピジャージュ(PIGEAGEタンクや大樽内で発酵中ブドウの皮の層を上下に攪拌すること)を控えるようになった。

ワインの成功のもとがヴァンダンジュ・アンティエール(VENDANGES ÉNTIÈRES ブドウ収穫後、茎ごと圧搾し発酵すること。通常は青臭さやエグミを避けるために取り除かれるが、茎にもタンニンが含まれるためワインの寿命は長くなる。ロマネ・コンティもこの製法で作られる)によるところも大きい。アンピュイ村のドメーヌ・ジャメ、ギガルなどは他の製造所にもこの技法を伝えている。白ブドウ種やヴィオニエには糖分が多く、従来補糖(シャプタリザシオン)に用いられてきた。こうした品種は1940年代には2割を占めていたが、2016年には5%以下にまで抑えられるようになった。結果、バイオレットのニュアンス、血色の表層には芳香族化合物のアロマが加わる。シラー種の栽培と熟成には北の限界線と言われるこのアペラシオン特有のメリットを生かしているのだ。そうしてついにコート・ロティはエルミタージュの多くのものよりもよりフレッシュで落ち着いたスタイルを獲得したのである。

 

なんという長い道のりだっただろう。

信じがたいことにコート・ロティは一時消失の危機にさらされたのである。

 

「私たちのアペラシオンは世界大戦後、非常に深刻な時期を迎えました」

 

そう語るのは、フィリップ・ギガル氏。この地でも過疎化の問題が急激に広がり、農業を諦める人が大勢増えた時期、多くの畑が放棄されることとなった。地獄のような悪循環からなんとか脱するために、誰かが立ち上がったのがエティエンヌ・ギガル。ヴィダル・フールリー社の雇い職人だった彼はコート・ロティの持つ潜在能力に賭けて50年代に企業し、ブドウ苗を購入、栽培から全てをスタートさせた。それはやがて息子のマルセルへと受け継がれる。

 

50年に渡る努力は次第に実を結び始め他の醸造所クルーゼル、ジャメ、ビュルゴー各社が続く。70年代末、コート・ロティは50ヘクタールのブドウ畑を管轄していたが、1989年には2倍の100ヘクタールに増加し1914年以前の状態に戻り、2000年初頭には200ヘクタール、今日では300ヘクタールのブドウ畑が3つのエリア(アンピュイ、サン・シール・ル・ローヌ、テュパン・エ・セモン)で栽培されている。

 

コート・ロティは正確には2つの区画に区分される。ラ・コート・ブリュンヌとラ・コート・ブロンドと呼ばれそれぞれに土地の特徴がある。

 

コート・ブリュンヌ

コート・ロティのアペラシオン内北部にあたるサン・シール・ル・ローヌとアンピュイ。

アペラシオン全体の3分の2を占めるコート・ブリュンヌは粘土層と結晶片岩の土壌を持ち、土の色はより濃い。コート・ブリュンヌを象徴するテロワールは、レ・グランド・プラス、ランスマン、コート・ロジエ、そして有名なランドンヌ。これらは4つのドメーヌ「ロスタン」「ゲラン」「ギガル」「ドゥラス」で製造がされる。ここで生まれるワインはしっかりとしたストラクチャーを持ち、タンニンが効いた力強い印象を与える。

 

コート・ブロンド

アンピュイから南へテュパン・エ・セモン、アペラシオン・コンドリューの境界線にかけて広がるのがコート・ブロンド、花崗岩質の白い土地。土の色は明るく、ここで最も知られるのは南部のメゾン・ルージュやコトー・ド・バスノンだろう。コート・ブロンドのワインはよりまろやかで優しい味わいを持つのが特徴で若いうちから楽しめる。ここではヴィオニエも作られる。

 

april 2016 Cote Rotie map

 

“リュー・ディの区分によるキュベの増加は、ワインの多様性というものに大いに貢献するのです”

 

「リュー・ディ lieu-ditとはフランスで土地台帳が創設されて以来、その名を地形学あるいは歴史的な特性に由来する土地の小さな区画を指し、“ブルゴーニュ”といった土地の性質ではなく、土地の所有者による土地の登録に該当する。」

ドメーヌ・ジョルジュ・ヴェルネのクリスティーヌ・ヴェルネは説明する。アペラシオンの中でも優れたリュー・ディによるより細かな階級化がされる日は来るのだろうか。そうなればコート・ロティの可能性はますます期待されるものになるだろう。

 

偉大なるダイナミズム

ミシェル・シャプティエ氏により、私はコート・ロティの進展がまだ始まりの段階であることに気づかされた。ブドウ畑の土は年々熟成し、新たな植え付けの際には必ず改善策が施される。他と比べてビオワインの普及に遅れが見られるのは、コート・ロティがローヌ南部の地より湿度が高いせいであり、また若い世代の者たちはこれからできるだけ早く有機農法に着手しなければならないことを認識している。特に2013年のワインは非常に美味であり、豊かな芳香にあふれた仕上がりとなっている。変化を恐れず見事に宙へと飛び込むダイナミズムである。(フィリップ・モーランジュ)

M・シャプティエ社は1808年、ボルドーに次ぐフランス第2位のA.O.Cワイン産地のコート・デュ・ローヌ、エルミタージュの丘で創業したローヌ地方を代表するワイナリー。7代目現社長のミシェル・シャプティエ氏に至るまで、家族経営のもとテロワールを大切に守り品質の高いワインを造り続けている。

 

ドメーヌ・ジョルジュ・ヴェルネ

クリスティーヌ・ヴェルネ氏、赤ワインのセンシュアリティ(官能性)について語る

コンドリューにあるジョルジュ・ヴェルネはコート・ロティに6ヘクタールのブドウ栽培地を保有する。3つのリュー・ディを保有し、コート・ブロンドのメゾン・ルージュでは古株から特徴的なキュベを作っている。ランスマンとコトー・ド・バスノンではブロンド・ド・セニュールのためのシラーと5%のヴィオニエを栽培する。

「今後はシラーの熟成により一層力を入れていきたいと思います。従来よりワインの熟成期間を長くさせ、ブロンド・ド・セニュールは18ヶ月、メゾン・ルージュは完成までに24ヶ月かけています。こうすることで私たちの赤ワインの良さが現れて来るのです。」

シラーの持つ深い魅力的な味わいと、造り手の感性を求める長期熟成が合わさり、ここに一つの美しい調和が誕生したのだ。

 

april 2016 Cote Rotie cover logo

La Revue du Vin de France No.600 2016年 4月号

 

著:フィリップ・モーランジュ、ロベルト・ペトロニオ

www.larvf.com.

翻訳 橋井杏


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