『ジャン=クロード・エレナ エルメスの嗅覚、ワインを語る』2017/7/13
フレデリック・マル、ヴァンクリーフ&アーペル、エルメス・・・
フランス香水の数々の傑作がエレナ氏の手によって生み出された。フレグランスの巧者が香水とワインの関係を解き明かす。
La Revue du vin de France(La RVF) :
あなたの嗅覚はグラースで調香師をされていた父親によってかなり早い段階で形成されたのですね。
ワインを口に運ぶ前に、その香りを嗅ぐことにはどのような喜びがあるのでしょうか。
Jean-Claude Ellena :
父は何か食べる前あるいは飲む前にその一つ一つの素材をまず嗅がせるということを僕と兄弟にさせてきました。特別なことではないのです。しかし、慌てて飲み込まず、その前にゆっくりと呼吸し、思考することの喜びを発見しました。父は飲み込む時にも同じように一呼吸置き味わうことを教えました。
今では、同じことを私は自分の子供達にし、彼らもまた同じように子供に伝えています。まるで家族のしきたりのようですね。食事前の休息の儀式です。なんとも美学的な過程でしょう。これと調香師の基礎となる嗅覚を獲得するのとでは全く異なります。ここでは、焦げた味、甘い味、苦い味を知るのみで、その精緻さや有効性を理解するのはもっとずっと後のことです。私の孫は19歳になるのですが、彼は女性の気を引くためにどのように食べ物を味わい、そして味わったものをどう語るかを見せることで成功しているみたいですね。まるで鋭い釣針のような有効な手段です。「僕の感覚の喜びから君に奉仕いたします」といったところでしょうか。
La RVF :
最初のワインの体験はどのようなものでしたか?
エレナ氏 :
ワインは私の専門ではありません。けれども両親や祖父母はよく、子供が7、8才になればほんの少しのワインを味見させてくれました。子供にとっては、いけないと分かっているからこその楽しみがありました。二十歳くらいになり、貴重な美しいワインを開けることのできる裕福な人たちと交友する機会に恵まれました。かつてジュネーヴで、誕生年の1947年のシュヴァル・ブランを飲んだ時のことは、あぁ今でもその味が記憶に残っていますね!その時をきっかけに様々なワインを発見してきました。その多くは一緒にワインを試飲しようと呼んでくれた人のおかげでした。
La RVF :
香水とワイン、香りを嗅ぐ時の違いはなんでしょうか。
エレナ氏 :
香水には二秒もかかりませんが、ワインの場合だとグラスに注ぎ入れてから次第に近づいていくための儀式のような段階がありますね。
こちらの方が官能的で興味深いと思います。もう一つの違いは、ワインは分かち合えるということです。オー・ド・トワレを共有することはできませんが、一本のワインを分け合うことは可能です。この二つは同じ弁証法ではないのです。
ワインについて言葉を共有し、会話を交わすことが、私たちのつながりを深めてくれるのです。ワインの最大の楽しみはそこにあります。各人がその複雑さを様々な角度から捉えることができるでしょう。ワインを作るにあたっては人間が味を生み出します。ブドウの香りは、300〜400個の分子で構成されています。人の手を経て熟成したワインになる頃、香りの分子は1800個以上になります。人間は自然と融合し、豊かさと複雑さ、ヒューマニティを与えることができるのです。
La RVF :
すなわち香水において大きく異なるということですね。
エレナ氏 :
調香師の立場からすれば対極であると言えます。私は香りを出来るだけ単純化し、20〜30種の構成物のみ用います。その香水に何を語らせたいかを想像しながら。
ブドウ栽培者は自然が生み出すものに美を与えます。私の場合は、自然が私の語らせたいと願う通りのことを語るようにその首を絞めるようなことをします。真の独裁者と言えますね。バラの花は300〜400個の分子で構成されていますが、それらは2つか3つまでに減らすことができます。バラの香りの錬金術と私が呼んでいることなのですが、続いて茶の香りをつけたバラ、ラズベリーのバラ、プルーンのバラ、と作っていくのです。自然は戯れ、人間を使って遊んだりもします。私は自然と戯れるのです。それを遊戯と呼ぶのです。
La RVF :
ワインを語るように香水について語ることを好まれますか?
エレナ氏 :
ブドウ栽培者やソムリエは香りに重点を置きながらワインを語ります。「これは果実の香り、木の香り、少しスパイスと、バニラの風味…」とね。あるいはブドウの苗や土壌、全ての背景について。全くもって、なんと素晴らしい世界でしょう!彼らはあなたをワインの世界に導き、あなたがこれから口にしようとしているワインついて興味を持ってもらえるよう語りかけるのです。私はそれを大いに称賛します。美しい成功です。彼らはワインをより優れたものに変えてくれるのです。職人の方達は私たちよりもより深くワインについて語ることが必須とされているから。フランスでは、ワインは香水と同じようにどう語れば良いかが分からないままにされてしまっています。たいがい香水の販売員は私をひどくがっかりさせるのです。「紳士用か、女性用か…あ、これはいい。最後の一つになっている。こちら売れ筋の商品ですよ。」とね。これでは夢がありません。
La RVF :
ワインと香水にはある共通の概念があります。すなわちこの二つによって生まれる喜びは、夢や想像といったものによって増大するということ。
香水が肌の上で香るのと同じくワインは食事に花を添えてくれます。
エレナ氏 :
少しパーカー氏の批判になるようなことを言いますが(笑)。ワインについて語る際「オーク」、「強いキャラメルの」、「ドライフルーツ」などの言葉を使い、味を固定観念化してしまう所に問題があるのです。痛々しい演説のようで、くどくてまるで「愛しています。」と繰り返し言われるのに似ています。これは手っ取り早い口説き方と同じで、今日の私たちがよく使う手ですが。私はすでに歳を重ねたせいもあるかもしれません、今ではボルドーよりもブルゴーニュの方が好みです。ブルゴーニュの方がずっと多様で、驚きがあります。また、ワインというのは物語を語って聞かせます。これは私たちが皆探し求めているものでしょう。そして次にその物語を誰かに語って聞かせることでまた新たな段階に進めるのです。良き語り手は、良き色男なのですね。
La RVF :
では言葉においては?果実、スミレ、火薬、といったテイスティングの用語はあなたの嗅覚の専門用語に翻訳されるのでしょうか?
エレナ氏 :
ワインの専門家たちは香りの比較の対象に自然物を用います。それはワインがブドウを基本としているためです。香水において、感覚のパレットというのはもっと大きく開かれているのです。他の言葉を用いたりもします。柔らかな、あるいは引き締まった香り、渋み、切り立ったような、あるいは張りのない香り・・・。感覚的な語彙、触れた感覚に関する言葉。もし私が、「ミモザの花」とだけ言うことに満足できればそれも悪くないでしょう。しかし、例えば「これは私の作り出したミモザです。その粉末のようなテクスチャー、絹のような、軽快さを求めて生まれたのです。」とすれば途端にその感覚的な部分、一つの花であることを超えた点を言い表すことができます。つまりミモザの視覚的、触覚的な側面を表現したことにつながるのです。もし香水においてもこうした側面を表現することができれば、それはあるものに価値を付加したと言えるでしょう。
ワインにおいては、柔らかな、とか引き締まった、あるいはその他に形容される果汁がありますが、香りにおける語彙のフィールドは存在しませんね。ですので、口の中の味覚だけでなくもっと感覚的な部分に向かうことに励んでみてください。味覚は感覚の大聖堂なのです。嗅覚は感覚のみに限られてしまいますが、しかし味覚は熱、冷たさ、触れる感覚、それにまず目が補ってくれます。準備は整い、全ての感覚に接近することができるのです。しかしたいていの場合は、ワインの視覚的な点だけが語られるだけですね。色、透明感、そして味。
La RVF :
常日頃から、あなたは絶えず香りを分解することをされていますね。ワインにおいても同じなのでしょうか?
エレナ氏 :
私はできるだけ普通の人でありたいと、知識をひけらかしたりしない人間であるよう努めています。
その理由は単純で、恋に落ちる感覚を忘れたくないからなのです。
哲学者ロラン・バルトの定義するように、私は恋をする際に理由を求めないのです。香水のブティックでは、嬉しそうな顔の方もいる一方、逆に不快な顔をされることもあります。来られた人にはこの感情的ショックを受けてほしいと思っています。調香師である以上、私はこの驚きを得ることができません、あまりに知り過ぎてしまいましたから。香水を嗅いだ途端、それを分析してしまうのです。しかしワインにおいてはまだそれが可能です。仮にあるワインを説明するように言われれば 、何も知らないように振る舞うことができます。またそうしなければ自分の専門領域に入りすぎてしまうのです。しかし一方ソムリエたちと話をすることは大いなる喜びとなります。彼らが語るその物語、紹介してくれるワインの性格に耳を傾けるのです。そして時々それとなく言うのです。「そこへ、こんな言葉を追加することもできるんじゃないかな」と。
La RVF :
ワインはインスピレーションの源泉ですか?
エレナ氏 :
ボルドーワインの単一性には、いささかの倦怠感を感じざるを得ません。もちろん素晴らしいものもあります。骨組みのしっかりとした熟成された、しかしながら私は枠組みにはまったものは好きではないのです。私が興味を持つのは「驚き」なのです。もしあるワインが私に味覚や嗅覚の驚きをもたらした場合、それは後に何か導き出す手がかりとなり得るのです。イヴ・サンローランの「In Love Again 」の製作にあたっては、サンセールの果実のみずみずしさと同じ感覚をトップノートに使いたいと思いました。私はサンセールのバラのような、またグロゼイユやフワンボワーズやカシスの香りに惹かれていました。素材としてこの快活さが欲しかったのです。サンセールのもつ衝動のような。
La RVF :
赤か白か、好みはありますか?
エレナ氏 :
白には大きな可能性がありますね。白の特上ワインの場合だと、ペラン氏のシャトーヌフ・ブラン(シャトードゥボーカステル)を飲んだ時に感じました。奥深く進んでいき、その余韻もまた素晴らしかった。巷の白ワインにも素敵な驚きがあふれています。赤ワインでは、時に残念にも「なんだ、こんな程度か。」と諦めてしまうことがあります。
La RVF :
ワインでは獣臭や土に例えられる香りがあります。ワイン醸造では馬の汗や濡れた毛皮といった芳香を生み出すこともありますが、香水においてもこのような「不快な芳香」は、心地よいものになり得るのでしょうか。
エレナ氏 :
私たちが不快と感じるものは、いわば人間の動物的側面なのです。排泄物や汗、皮膚と体の匂いを私たちは遠ざけようとします。なぜかといえばそれは直接「死」のイメージにつながるからです。調香師として私はここに立ち向かいたいと思います。人間の動物的な部分を知覚し、受け入れるべきだと思うのです。獣やジャコウネコの芳香はワインに温かみをもたらします。
6月のある日、人々を引き連れてラベンダー畑に出向いた時のことです。私は一緒に生えていたセージとラベンダーが合わさった香りが、人間の汗と全く同じだと気がつきました。私はこの試験じみたことが気に入りました。彼らは畑を降っていき、やがて約半分の人が「わぁ!スポーティな匂い!」と叫んだのでした。自分自身の香りを認識することは、恋愛の関係においても決定的に重要なことです。自分はあなたの香りが好きだから一緒にいたい、ふきつけた人工的な香水ではなくて、その体の香りが好きだから、と。
La RVF :
ワインには妙薬としての面もありますね。
エレナ氏 :
そう思います。祖母は私が12か14歳くらいの頃にジャスミン畑に連れていってくれたことがありました。花を摘み取っていたのは若い女性たちです。そのジャスミンと汗の混じった香りは、美しい女性とも重なってなんとも官能的でした。ワインにおいて、ブドウ摘み、圧搾、空になった収穫カゴ…そういった分け合うことのできる喜びに満ちています。この一連の動作の中に強いエロティシズムが潜んでいるように感じます。
La RVF :
ワインにおいて固有なものとは?
エレナ氏 :
一本のワイン、その背景には人間と自然が共存します。それが興味深いことなのです。チリのワイナリーを訪れた時には、水撒きにいたる全てが機械に任されていたことに驚きました!そこのワインを試飲いたしましたが、よくできていました。しかしある意味での言うことなしだったのです。
La Revue du vin de France(ラ ルヴュ デュ ヴァン ド フランス/RVF)2016/02 記事抜粋
www.larvf.com.
ジャン=クロード・エレナ
翻訳 橋井杏
Rhone & Provence 南フランスワインの店 aVin
Keisuke Matsushima × aVin 7/6(木) マリアージュ研究会2017/7/10
先日は湿度の高い東京原宿から南ローヌへのディナートリップへお集まりいただき、
お越しいただいたみなさまどうもありがとうございました。
スタジオを初めて飛び出したマリアージュ研究会
今回ニースから来日中の松嶋シェフには、ほっとしたり、ドキっとしたり
これから夏を迎える体の糧となるメニューを、ローヌワインに合わせ特別に考えていただき、aVinとしては幸せとしか言いようがありません!
支配人兼ソムリエでもある向井さんには、各ワインにあわせてグラスも選んでいただき、南ローヌワイン、シャトーヌフ・デュ・パプの多彩な魅力を思う存分引き出して頂きました。
不定期ですが、今後も様々なお料理とのマリアージュ研究会やカジュアルに南仏を楽しめる機会も設けていけたらと思っています。
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原宿のKeisuke Matsushima Tokyoさんでは、
松嶋さん直伝レシピ以上のものを学べる寺子屋塾やソムリエ向井さんによるテロワール塾をはじめ南フランスを楽しむイベントが随時開催されています。
イベントはFBページでどうぞ。aVinスタッフもよく参加しています。
http://keisukematsushima.tokyo/
https://www.facebook.com/KEISUKEMATSUSHIMATokyo/?fref=ts
ニースのお店では、コートダジュールの陽射しの眩しさから包み込んでくれる時を!
http://www.keisukematsushima.com/
https://www.facebook.com/Keisuke-Matsushima-Nice-123594054…/
支配人でソムリエの向井さん
スープドポワゾンには “Gros Nore Rose 2014”
le Clos du Caillou(クロデュカイユ) “Les Quartz Rouge Chateauneuf du Pape2013″とともに
AOC Chateauneuf du Pape(シャトーヌフデュパプ)を熱く語るaVinのリーダー日下部
Vieille Julienne(ヴィエイユ ジュリアン)les Trois Sources 2010 (レ・トワ・ソース) グラスもぽってりラウンドのもので
ニース名物ソッカ
「Keisuke Matsushima 」松嶋シェフはニースから来て頂きました。
KEISUKE MATSUSHIMA × aVin マリアージュ研究会 2017/07/06(木)2017/7/6
世界各国料理、各地方郷土料理、和食と南仏ワインのマリアージュを探るaVinのマリアージュ研究会
今回は、原宿、東郷神社そばにあるレストラン”KEISUKE MASUSHIMA”で開催します。
現在ニースをベースに活躍される総料理長松嶋氏による
ローヌ&プロヴァンス料理 × aVin の 南ローヌ&バンドールワイン の正統派マリアージュ!!
日時:2017年7月6日(木)19:30頃~(時間は決定次第お知らせします)
場所:KEISUKE MATSUSHIMA TOKYO
〒150-0001 渋谷区神宮前1-4-20 パークコート神宮前1F
℡03-5772-2091
http://keisukematsushima.tokyo/
会費:12,000円(お食事+ワイン)
定員:15名
お席に限りがありますので、ご予約はお早めに!
ご予約・お問い合わせは以下をクリック
南仏が大好き!南仏ワインが飲みたい!プロヴァンスを旅したい!松嶋シェフの料理が食べたい!
そんな方々、ご友人や大切な方とご一緒にぜひお越しくださいませ☆
下記にメニューがあります ↓ ↓
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☆☆MENU (予定)☆☆
<Apéritifs d’été>
Brandade de Morue たらのブランダード
Macarons à la Tapenade タップナードのマカロン
Œufs à la truffes d’été 卵とサマートリュフ
<Amuse-Bouche>
Poisson des Roche en soupe , rouille, croutons 磯魚 スープ仕立て、ルイユ、クルトン
Ratatouille à la niçoise ニース風ラタトゥイユ
Caillette Salade haricots verts et jeune, pêche blanche, girolles sautées
カイエット いんげんのサラダと白桃、ジロール茸のソテー
Gigot d’agneau rôti au thym, barigoule d’artichauts violets, ail confit
仔羊のモモ肉のロースト、タイム風味、アーティーチョークのバリグール風、にんにくのコンフィ添え
Fraise-Basilic glace huile d’olive de Nice “vierge”, madeleine aux olives noires
イチゴとバジリコ オリーブオイルのアイスクリーム添え、黒オリーブ入りマドレーヌ
☆☆wine lineup 5種×100ml(予定)☆☆
sparkling wine
Bandol Rose 2014 Domaine du Gros Nore
AOCバンドール ロゼ ”ドメーヌ・グロノレ”
Cotes du Rhone blanc lieu-dit Clavin 2015
AOCコートデュローヌ リューディクラヴァン 白 “ヴィエイユ・ジュリアン”
Les Quartz Rouge Chateauneuf du Pape 2013 le Clos du Caillou
AOCシャトーヌフデュパプ クワルツ 赤 “クロデュカイユ”
Chateauneuf du Pape rouge les Trois Sources 2010
AOCシャトーヌフデュパプ トロワソース 赤 ”ヴィエイユ・ジュリアン”