aVinは、長野&南仏ビオワインを販売、卸、輸入しています。長野&南仏の文化、アート、暮らし、ワイン、そしてつくる人たちの情報を発信します。

「シンプルにワインを楽しむこと」サンジャックの道 “le chemin de Saint Jacques”2018/1/26

 

ESPAGNE_CHEMINS_DE_COMPOSTELLE_PERLERIN_CAMINO_FRANCES   chemin-de-compostelle-2

 

一日中歩き回って、水しか飲んでいなかった時に飲むワインほど格別なものはない。

 

昨年の夏、あの世界遺産としても知られるサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路に行き、そのことを実感した。オーヴェルニュ(Auvergne)地方の山奥の宿にもワインがあるし、ブドウ畑が少ないマルジュリド(Margeride)地方の花崗岩質でできた高台の宿でさえ当たり前のようにワインがある。

 

不思議なことに、この巡礼路で食べる料理というのは味がワンランク上がり、質素な夕食がご馳走に変わってしまう。ある晩、ル・ピュイ=アン=ヴレ(le Puy-en-Velay)村の大きな玄武岩質の壁に阻まれた所にある宿泊施設グラン・セミネール・サン・ジョルジュ(Grand Séminaire Saint-Georges)にたどり着いた。食堂に入ると、夕食を給仕してくれる老人が(彼自身も巡礼者なのだけれど)、野菜スープと一緒にワインのボトルも忘れずに大きなテーブルに置いていく。ただ、EUのシンボルである星のラベルが貼られている瓶を見て、胃の調子がおかしくなりそうになった。「カーヴ・ド・ヴィエイユ・テール(EU構成国の複数のブドウを使用)」と書かれた白いエチケットを見る限り、味に関してはとても期待はできない。実際、これほど薄っぺらくて、余韻のない安ワインを飲んだのはどれだけ振りだろう。デュラレックスのコップというのは昔は食堂でよく目にしたが、そのコップに注がれたワインのせいで一瞬にして気持ちが萎え、70年代の頃を思い出してしまった。

 

きっとこのボトルは何か特別な旅を予見していたのかもしれない。結果としては、当初の期待に違わずとても素晴らしいものだった。今まで見たこともないような美しい景色の中を自分の足で歩くことができたのは本当に素晴らしく、オーヴェルニュ(Auvergne)地方、ルエルグ(Rouergue)地方、ケルシー(Quercy)地方にある昔ながらの田舎の風景を残す村々や黄金色に輝いた農場の中を歩いていく時はただただ感動するばかりだった。コンク(Conques)村やロカマドゥール(Rocamadour)村で瞑想したり、カオール(Cahors)村では祈りを捧げ、モワサック(Moissac)村の修道院ではその美しさに息をのんだ。そしてそのモワサッ村では、幻の白ワインブドウ品種シャスラ・ドレが世界遺産に囲まれて育てられているのも見ることができた。こうして、毎晩新しいワイン、それもびっくりするようなワインで晩酌することになった。

 

ある日の午後、太陽が照りつける中オーブラック(Aubrac)村を歩いたせいで顔が日焼けをして真っ赤になり、ナスビナル(Nasbinals)村のルート・ダルジャン・ホテル(Hôtel de la Route d’Argent)に着いた頃にはヘトヘトになっていた。その宿の亭主バスティドが出してくれた料理はシャルキュトリーの盛り合わせ、アリゴ(じゃがいもとチーズを練り上げたオーブラック地方の郷土料理)、それにリ・ド・ヴォーのセップ茸添えで、その素晴らしい食材のおかげであっという間に体力を回復することができた。そしてお腹を空かせた巡礼者たちのテーブルには、マグナムボトルのロゼワインが何本も振る舞われた。気品などはないワインだけれど、よく冷えていて喉の渇きを癒やしてくれる。それだけでもう十分豪華な食事と言っていい。

サン・コム・ドルト村にあるマレ修道院でドゥニーズという名の修道女が振る舞ってくれたコート・ド・ローヌ(Saint-Côme-d’Olt)のワインのことも忘れられない。その時は同じく巡礼中のアレックスという32歳の機動憲兵隊員も一緒にいて、雨の中修道院にたどり着いた。その時にその修道女が、「さぁ、このワインで体を温めて下さい。」という言葉で我々を迎え入れてくれた。巡礼の旅路でなければきっとその場で彼女を抱きしめていただろう。テミーヌ(Thémines)村では、ネリー・ラカリエールさんが旦那のワイン庫から出してくれたカオール産ワインとヤギのチーズを夕食にどうぞと分けてくれた(それもたった3ユーロで)。ちょうどその日の夜はカバンの中には食べるものが何もなく、しかもその村にはレストランも食料品店もなかった。そうして牧草の中で、2頭の馬を目の前にしながら夕食を食べたこともあった。

 

巡礼の旅というのは禁欲的な側面もあるけれども、道中での出会いや友情にも恵まれている。ブールドワール(Bouldoires)村では、パトリックとクリスティーヌのネイロール夫妻と食べた昼食に舌鼓をうち、オリヴィエ・ジュリアンのワインのおかげで話も弾んだ。そしてケルシー・ブラン(Quercy Blanc)地方に入ると、ひまわりで黄色く彩られたモンキュック(Montcuq)村の路を歩き、デトレヴ・バレル共同宿泊所で一泊した。その次に訪れた小高い丘の上に作られた美しいロゼルト(Lauzerte)村では、ホテル・デュ・ケルシー(Hôtel du Quercy)でマリーと一緒に夕食をし、素晴らしいシャトーヌフ=デュ=パプのワインを飲むこともできて本当に至福の時だった!

 

コンポステーラ巡礼という経験は今ではそれほど特別なものではなくなっているけれども、何が印象に残っているだろう?

 

とりあえず、食べ過ぎで罪悪感を感じることはないというのは言える。とにかく歩くのだから。1日に6時間から8時間、毎日25キロから30キロくらい。肉体的にも精神的にもいいことだ。しかもいろんなものと巡り会う機会がある。ワイン、石の十字架、あるいは巡礼路沿いの森だったり。それらは人類共通の宝物と言っていいものだ。思いもかけないようなワインと毎晩出会える幸運にも恵まれる。

 

ヨーロッパでそのような経験を味わうことのできるのはフランスとイタリアぐらいなものだろう。
画一化されていない国を旅するということこそ、旅の醍醐味と言える。

 

LA Revue du Vin de France no.616 Nov.2017 記事抜粋
著)La RVF編集長ドゥ二・サヴェロ(Denis Saverot)

翻訳 POPO

 

accueil02

 

images  images-1

 

obpic5zEoeI

 

RVF_Les vins simples_photo  2017.11cover  logo

 

Rhone & Provence wine
aVin

avin.jp


Page Top