スペシャルインタビュー 『マーク・シバール氏』
声は大きく、気さくな性格、ラグビー選手のような肉体 …
元ソムリエであったマーク・シバール氏は、パリで1850年から続く一流ワインショップ「カーヴ・オジェ」のトップに就任して以来今年で30周年。
今回はシバール氏からワインの「味」と「保存」について話を聞いた。
聞き手:ドゥニ・サヴェロ、フィリップ・モーランジュ 写真:レジス・ギルマン
La Revue du vin de France no.607/dec 2016 – jan 2017 記事抜粋
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La Revue du vin de France(La RVF) :ワインはどのように飲まれますか?
マーク・シバール氏
大抵のワインには匂いがついています。私はそこにアロマを求めているんです。例えば白ワイン、この場合はレモンやミント、シダ科の植物などの香りを探るようにしながら飲みます。良いワインには必ず良い芳香が存在します。
La RVF:ワインのローブ(色調)に関しては?
シバール氏:
決して色で判断をしないことですね。ワインは絵画ではないのです。視覚からワインに入っていくのはソムリエにとっては正しくない方法です。しかし優れた味のワインと言うと、自分は透明で明るいものより、やや濁りのあるものの方を好みます。
La RVF:なぜ亜硫酸塩の添加には反対なのですか?
シバール氏:
硫黄成分はワインの味を硬くしてしまうからです。香りも阻害し、その味の進展に足かせをはめてしまう。
「素晴らしいワインと言うのは長期に渡り保存ができる、20年越しにその味を知れるでしょう!」
などと以前はよく言われましたが、我々の時代にワインを開けるまで20年待つことを望む人っているのでしょうか。
私だったら、いいワインがあればすぐに開けて飲みたいですね。だから保存料を加える必要などないのです。
亜硫酸塩は有害な成分ですから、欧州共同体は「酸化防止剤(亜硫酸塩)添加」をラベルに表記することを義務付けました。
La RVF:いつ頃からカー
・オージェでのワインの仕入れを始めたのですか?
シバール氏:
1990年代初頭かな、その頃ボルドーやシャンパーニュの味がソムリエだった頃の時代と比べずいぶん変わってしまったと気づいたのです。その昔、ローランペリエのグランシエクル(Grand Sciècle)といえばペリエジュエのベルエポックやローダーのクリスタルとは異なる味を持っていたのです。味は際立っていた。今日では選別された酵母がいつも同じ味を生み出すようになってしまいました。このスタイルの変革には戸惑いました。それから、他と違う味を持つワインを擁護するようになったのです。
La RVF:「他と違う味を持つワイン」とは一体なんでしょうか?
シバール氏:
当初から「保存料無添加」という言葉に取り憑かれていたのではないのですが、私はずっと守り続けられてきた味を探していました。
例えば80年代初頭のマコンのジャン・テヴェネ(Jean Thevenet)は、ブルゴーニュで素晴らしいシャルドネを製造していて、以前はとても愛好していましたが、やがて保存料を過度に使用するようになってから買い入れをやめてしまいました。後になって、保存料が入っていると必ず頭痛が引き起こされると気がつきました。まだ若い頃、ピエール・ペラルドンとフィリップ・ブルギニョンのドメーヌ付近で素晴らしいヴィンテージのボルドーとブルゴーニュワインを飲んだことがあります。濾過されていない、50年か60年代のもので、ボトルの底に10㎝ほどしか残っていなかったのですが、それでもちゃんと味がありました。90年代に入り、ワイン栽培方法の変化によって何もかも不味くなってしまいました。その時代、キリアコス・キニゴプロス氏やギイ・アカッド氏たちが一世を風靡した時がありましたね。バトナージュ(醸造時に澱の沈殿をかき混ぜワインに旨味を持たせること)の禁止がされたのもその頃です。ボルドーにおいて状況はさらにひどいものでした。それからは、信頼のできるブドウ栽培場であったアンリ・ジャイエ (Henri Jayer)、ユベール・ド・モンティール( Hubert de Montille)、ジャック・ダンジェルヴィル ( Jaques d’Angerville) 、ヴァンサン・ルフレーヴ (Vincent Leflaive)、ルペールダンヌ=クロード ( le père d’Anne=Claude)などに向かっていくようになりました。
La RVF:エノロジー(ワイン学)とはつまり災害に等しかったのでしょうか?
シバール氏:
ワインは8000年以上前から作られ続け、その伝統は父から息子へと受け継がれてきました。
ところが二つの世界大戦の間の時代にエノロジーというものが生まれ、ブドウ栽培者に積極的に取り入れられていったのです。当初、エノロジーはワイン作りにおける問題に対処するためにありました。動物が病気になった時に活躍する獣医に似ていますね。50年が経ち、全てが変わりました。濾過法、逆浸透膜法、凍結技術、機械での収穫。テクノロジーが支配してしまうという恐ろしいことになったのです。これらは許し難いですね、ワイン畑の介入者のようです。エノロジーというのはワインの田舎っぽさや農民らしさを取り除き、繊細で精密なインターナショナルな味を生む目的なのです。そして、その度に用いられる多くの化学薬品によってエノロジーはヌヌロジー(フランス語でくだらないという意味のneuneuとœnologie をかけた言葉)になってしまったというわけですね。
マーク・シバール 1962年 パリ出身。
シバール氏が 30年前からオーナーとなって切り盛りしているパリ市内オスマン通りのカーヴ・オジェは、1850年創立のパリ最古のワイン・カーヴ。
La Revue du vin de France no.607/dec 2016 – jan 2017 記事抜粋
www.larvf.com.
マーク・シバール
翻訳 橋井杏